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東京高等裁判所 昭和56年(ネ)713号 判決

控訴人

鈴木秀雄

鈴木裕子

右両名訴訟代理人

田宮甫

堤義成

齋喜要

坂口公一

右両名訴訟復代理人

鈴木純

被控訴人

宮内美奈

外八名

主文

原判決中主文第二項を取消す。

控訴人らと被控訴人らとの間において別紙記載内容の「相続分割協議書」が真正に成立したものであることを確認する。

訴訟費用は第一、二審を通じ被控訴人らの負担とする。

事実

控訴人らは、主文第一、二項と同旨の判決を求め、その請求の原因は、原判決の事実及び理由欄一の1ないし4(原判決三枚目表三行目から同裏末行まで)に記載のとおりであるから、これを引用する。

当審における控訴人らの主張は、次のとおりである。

一  本件土地については亡鈴木大三郎名義の所有権取得登記が、本件建物については同人名義の表示登記がなされているところ、本件請求原因として主張したとおり、右大三郎死亡後その相続人間で遺産分割協議の合意が成立し、本件土地建物については鈴木フサが単独所有の形で相続することになつた。ところが、右遺産分割については、本件「相続分割協議書」を作成したのみで、鈴木フサは本件土地建物について相続による所有権移転登記手続をせずに死亡した。

二  ところで、本来であれば「相続分割協議書」と「印鑑証明書」の添付によつて、当該不動産を相続した相続人は単独で相続の登記をすることができるものであるところ、本件においては「印鑑証明書」が紛失しており、これを添付することができないために右の単独登記手続が不可能となつているのである。このような場合においては、「印鑑証明書」に代えて「遺産分割協議書」が真正に成立したことを証明する判決を添付することにより単独で登記手続をすることができるのである。

三  本件原判決は、本件土地建物に対する控訴人らの所有権確認請求は認容したが、本件「相続分割協議書」の真否確認の訴えを却下し、同判決の理由中においても本件「相続分割協議書」の成立の真否については全く判断を示していないため、原判決に本件「分割協議書」を添付しても、前記相続による所有権移転の登記をすることは不可能であつて、登記官署の見解もこれと同一である。

四  以上の理由により、本件土地建物の所有権者である控訴人らとしては、これが所有権取得登記をするため本件「相続分割協議書」の真正なることの確認を求める必要が存するのである。

被控訴人らは、適式の呼出を受けながら、本件口頭弁論期日に出頭しないが、同人らの陳述したものとみなされる答弁書には、「前回東京地方裁判所へ提出した答弁書のとおりです。従つて控訴人の線求を全て認めます。」旨の記載がある。原審答弁書には、請求の趣旨に対する答弁として「原告らの請求を認諾する。訴訟費用は原告らの負担とする。」との記載及び原告らの請求原因事実をすべて認める旨の記載がある。

理由

控訴人ら主張の請求原因事実ならびに本件土地建物の登記簿上の所有名義が亡鈴木大三郎名義であることは、当事者間に争いがない。

ところで、相続による権利取得の登記は相続人のみの申請によつてなされるものであるが、相続人間の分割協議により相続人の一人が権利を取得した場合における相続登記の申請は、「分割協議書」のほかその協議に加わつた者の「印鑑証明書」を添付することを要し、右「印鑑証明書」が得られない場合はこれに代えて「分割協議書」が真正に成立したことを証明する判決を添付してこれをすることができることは、控訴人らの主張のとおりである。本件原判決は本件土地建物に対する控訴人ら所有権確認請求を認容したものであるが、その理由においても「本件相続分割協議書」の成立の真否について判断を示していないこと、従つて原判決に右「相続分割協議書」を添付しても亡大三郎から亡フサへの相続による所有権移転登記ができないことは、弁論の全趣旨によりこれを肯認することができる。これらの点と本件「相続分割協議書」がその記載内容から直接一定の法律関係の成立ないし存否が証明される書面であり、具体的には亡大三郎から亡フサへの所有権移転という法律関係の存在を証明する唯一の証拠資料である点に鑑みれば、控訴人らは被控訴人らとの間において右「相続分割協議書」の成立の真否につき、確認の利益を有するものというべきである。

判旨ところで、本件「相続分割協議書」が真正に成立したものであることは、被控訴人らは原審以来これを自認しているのであるから、控訴人らの本訴請求は本来これを認容すべきものである。もつとも、民訴法三八八条は、訴を不適法として却下した一審判決を取消す場合は、控訴裁判所は事件を一審裁判所に差戻すことを要する旨定めているが、その趣旨は審級の利益を保障することにあるものであるから、本件のように原審においてもまた当審においても、当事者の一方(原告)が主張する事実関係について当事者間に全く争いがなく、事実審理について審級の利益を保護すべき実質的理由のない場合には、敢えて一審に事件を差戻す必要はないものと解するのが相当である。

よつて、控訴人らの本訴請求につき訴えを却下した原判決第二項を取消して、前記確認の訴えを認容することとし、訴訟費用の負担について民訴法九六条八九条九三条を適用して、主文のとおり判決する。

(渡辺忠之 藤原康志 渡辺剛男)

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